「久保校長の提言と大阪市教育への意見」
大阪市立中学校 校長 名田正廣
大阪市立中学校に奉職して 38 年目ですが、私は今、教員生活の中で最大の危機感を感じています。
✳︎その理由は教員採用試験の倍率の低さや本校において大阪市外の採用試験の受け直し希望、他職への再就職をする人も増えています。また、多くの教員養成大学系の先生を知っていますが、大阪市外の学生の大阪市教員採用試験出願者が減り大阪市出身者でも大阪市は受けない人が増えたとよく聞きます。
もうずっと前から教頭のなり手が少ないですが、その状況はたいへん深刻です。小学校は自給自足できず多くの中学校籍の先生が小学校の管理職に配置転換されている現実があります。
他府県では教頭職には現在でもそう簡単になれるものではありません。他県の第 2 の地方都市の教育長をしている人が同期の友人でいますが、彼は、「校長の推薦がない限り教頭試験を受けることはできない。受験を校長から勧められたら、その先生は能力を認められたと非常に名誉なことと頑張る」と言っています。それが本来の形です。
教頭のなり手が減っていると言われてもう 10 年近くになります。
昨年 12 月の大阪市小中学校の常勤講師の欠員は60人だったようです。本校でも講師が必要になった時に、教育委員会人事担当にも連絡はすぐ入れ探してはくれますが、かなり長期間待たねばなりません。多くの管理職が欠員の先生の代わりに授業に入っています。本校でも毎年 2~3 名は SNS を介した自力での人材確保です。しかし、本当にもう限界です。
私は再任用 2 年目ですが、同期や 1 年下の校長の多くは定年で退職しました。仲の良かった校長にやめる理由を聞くと「もうしんどいねん」との枯れた返事でした。教頭から校長への栄進者が増えるのはうれしいことですが、力のある教頭候補が増えない限り、教育の改善は望めずそれどころか欠員さえ予想されます。教頭は言うまでもなく誰でもできる仕事ではありません。最悪の場合、学校の要である教頭のいない学校なんて想像しただけでも恐ろしいです。✳︎
市長の記者会見では久保校長の提言の内容や出た状況など真剣に聞く様子はなく、「校長だけど現場が分かってない。社会人として外に出たことはあるんかなと思いますね」「疲弊してやりがいが見つけらないんやたら、違う仕事を見つけたらいい」といったことが非常に大きく報じられています。もちろんその部分だけではないと思いますが、そのほかに伝わってくることは何もありません。
もし、発言に「お前の代わりはいくらでもいる」といった意味が込められているのであれば。市長には知っていただきたい。大阪市には代わりになる人はもういません。市長の発言は私は怒りよりも情けなくなり、同じ校長として頑張ってきた久保校長の気持ちを考えると、報われない虚しさを感じます。もう、自身も続ける気力が失せました。
そして、何も言えない教育委員会では命をかける気にはなりません。勇気をもっての進言もみ消されるのは、久保校長が何度か市民の声などで問題提起した対応を見ても明らかです。校長会で発言しても施策に対しては取り上げられることはありませんし、言える雰囲気でもありません。現場でも、疑問に思うことも言っても仕方ないと無機質になろうとし、心を病む先生が増えています。
私は全国レベルの研究会で挨拶をしたことが数年前にありましたが、そんな時の大阪市の注目度は残念ながら「興味本位」で驚くほど高かったです。久保校長の提言を、もしその時「朗読」できたら、他都市の校長は「常識が常識でない大阪市の現実」に「涙」を流したことでしょう。
私が書いた状況はオーバーでも何でもありません。こんな状況で良い教育ができるでしょうか?
日々、教職員は子どもたちのために必死に頑張っています。彼らが健全でないと健全な学校はできるわけがありません。
そして、そうなった原因は今の教育施策であることをご認識ください。全国的にも見られない新自由主義的教育施策を急激に導入されて、大阪市はハレーションを起こし、すでに「死に体」に近い状況です。私のところには多くの学校の教員からの苦しみの相談が届けられています。
かつては大阪市の教育現場は大人気でした。もちろん、その時代の課題は当然あり改善は必要でした。当時も今も私は「不易と流行」が教育にとって最も大事なことと思います。私の現在の勤務校では大阪市教育振興基本計画の「流行」である「先進的な取り組み」を取り入れ、本校の実践が広い範囲で広がりつつあります。そして、「不易」の部分である「人を大切にする協働の精神」を「職員のバーンアウトゼロ」に置き換えて毎年学校目標にしています。しかし、ストレスを緩和するのはそう簡単ではありません。先生が一人バーンアウトするとその補填で健康な職員が穴埋めに回らねばならない。穴が開いても大阪市では補填はそう簡単にない。その現実を考えると教職員にも「競争より協働」が必要な部分であると校長として強く思い実践しています。
大阪市教育振興基本計画の「教育振興」をするための最も必要なことは「人材確保や育成」に重きをなすことではないでしょうか。そのことを大阪市全体で置き去りにした結果、その最も大きなしわ寄せが「人材確保」に出ていることは明らかです。どこも人材確保は厳しいと聞き流すのではなく、今の現実をはっきりご認識され、市長はトップとしてしかるべき行動をお取りいただきたいと思います。
教育長におかれては今回の久保さんへの処分は「教育振興」につながる「人を大切にする観点」をもってお取り計らいのほどよろしくお願いいたします。また、法に基づく「教育の独立性」をはっきりとさせていただきたき崩壊の危機である大阪市教育をお救いください。
ここで立ち上がっていただけたら今まで以上に「協働の精神」で大阪市教育振興のために奉職する覚悟です。
なお、この意見書については大阪市の公開文書として開示対象になるようよろしくお願いします。
失礼の段は久保先生と同様に「提言」としてお許しください。