2月21日のSTOP!カジノ大阪出発集会での西澤信善さん(「大阪カジノに反対する市民の会」代表)の講演要旨を掲載します。
カジノは最悪のギャンブル
西澤信善さん(「大阪カジノに反対する市民の会」代表)
私は、カジノ問題はギャンブル依存症から関心を持った。2010年頃の話で、それまではギャンブル依存症という言葉さえ知らなかった。ちょうどそのころ当時の橋下府知事がカジノを誘致する話を打ち上げたとき、直感的に危険ではないかという思いが私の頭をかすめた。以来、ギャンブルと地域振興の関係について調べるようになった。
第1部 カジノ設置をめぐる動き
2016年12月にIR(統合型リゾート)推進法が、2018年7月にはIR実施法がそれぞれ制定され、これによって特定区域でカジノを実施する法的整備がなされた。
大阪は、こうした動きにはるか先行するかたちで独自に動き出していた。その主なものを下記に列挙する。
2010年7月 大阪エンターテインメント都市構想検討会の設置
2014年10月 夢洲まちづくり構想検討会の設置
(2016年12月 IR推進法成立)
2017年3月 大阪府市IR推進会議の開催
2017年4月 大阪府市IR推進局設置
この動きから大阪は全国に先駆けて、カジノを含むIRの誘致に力を入れていたかが分かる。大阪の特徴は、万博とセットにしてIR=カジノを推進していることだ。2018年11月、万博開催が大阪・夢洲に決定した。その会場はIRに隣接している。2024年IR開業、2015年万博開催というスケジュールが考えられている。しかし、ギャンブルは大変危険なもので、こんなもので地域振興してはいけないというのが私の持論だ。その危険性が万博開催のお祭り騒ぎにかき消されてしまっている。大変憂慮すべきだ。私は、「万博は半年、カジノは半世紀」と言っている。
万博の会場建設費は1250億円で、そのうち460億円を民間が負担し、大阪府市が残り790億円を出すという。果たしてこの金額で足りるのか。民間からの支出は、関経連会長が住友グループの総力を挙げて取り組むと言っている。韓国で自国民にカジノが認められている舎北(サブク)は自殺の名所になっている。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だが、命が輝くどころか失われるところと隣り合わせだ。
IR基本構想案が、先週明らかになった。60万平方メートルの大きさで、投資規模は9300億円。これは、土地を買って建物を建てるためのお金。カジノ面積は3万平方メートルで、シンガポールのマリーナベイサンズの倍の広さである。カジノ利用者は年間590万人を見込んでいて、これは1ヶ月平均にすれば50万人弱がカジノに興じることになる。IRの売り上げ(4800億円)の8割がカジノというところに注目して欲しい。これは単なる売上ではなく、儲け=粗利益であり、これの何十倍というお金が賭けられることになる。IRにおけるカジノの割合はシンガポールのマリーナベイサンズと同じで、ここをモデルにした考えられる。府市の税収700億円、雇用者88000人と見込んでいる。
カジノ開業までのロードマップにおける重要な関門は住民の合意である。議会が承認すれば、住民がゴーのサインをだしたことになる。住民投票は行われないだろう。4月の選挙でカジノに賛成する議員を落とせば、カジノをストップできる。選挙は大きなチャンスだ。
ギャンブル依存症対策では、全国の模範となるような対策(大阪モデル)を打ち出すとしている。その費用を誰が負担するのか。カジノの弊害は公害みたいなもので、本来、カジノ業者が負担すべきものだ。常識的に考えてここまで対策を講じないといけないもので地域振興を図るというのは理解に苦しむ。しかも、依存症だけの問題ではなく、教育上にも非常に悪い。
観光の起爆剤にしたいと言っているが、IRがなくてもインバウンド観光は大きく伸びている。2011年に158万人だったのが、昨年は1160~1200万人になった。7年間で7倍強であり、年率30%以上で伸びている勘定になる。2020年の目標は1300万人だ。IRなんかいらないのだ。関西のインバウンドの消費額1兆3000億円に上る(2017年、日銀調べ)。
第2部 なぜカジノはダメか
なぜカジノはダメか。3つのポイントがある。
① カジノは地域振興の手段としては本質的に不適である
② ギャンブルの災害は「社会災害」とみなすべきである
③ 不要不急のギャンブルにこれ以上巨額の金をつぎ込むな
商取引とギャンブルは本質的に違う。ギャンブルでは、胴元が勝ち、客は金を巻き上げられる。これは経験則である。金は負けた側から勝った側へ対価を伴わず一方的に流れる。しかし、商取引では金の流れと逆方向に財・サービスの流れを伴う。つまり商取引は、いわばWin-Winの関係だ。他方、ギャンブルはWin-Lossのものであり、地域振興の手段としては本質的に不適である。
カジノは最悪のギャンブルだ。勝てる気がして、のめり込んでしまう。オーストラリアのように、国民の何割かがカジノの影響を受け国が滅びそうなところもでてきている。賭ける金額が桁違いで、中高所得者が狙われる。入場料が6千円は抑制にもならない。
大王製紙の井川意高さんの例はご存知だろうが、同氏はカジノで106億8千万円を失った。ギャンブル依存症の怖さを示す例だ。よく考えてみると、これがカジノ業者の儲けだ。カジノの儲けの裏側には、負けた人の死屍累々がある。すでに日本のギャンブルでは28兆円が賭けられている。このニュースを聞いた私の第一印象は、「何ともったいない」ということである。もっと有益な使い道はいくらでもある。井川さんは自己責任というが、ギャンブルは負けを取り戻そうとしてのめり込んでしまう。自己責任というなら、アヘンだって自己責任だ。セーフティネットを張るのが自治体の本来の仕事である。
経済効果として、建設・インフラに対する投資額、巨額の売り上げ、雇用・税収が増加などが指摘されている。しかし、売り上げとは対価なく巻き上げた金であり、雇用も税収も原資はまさにその金であることを忘れてはならない。カジノには需要剥奪効果がある。つまり、カジノは他の需要を奪ってしまう。しかも夢洲に連れて行って金を巻き上げてしまえば、ほかでお金は使えないことになる。カジノを含まないIRも考えられる。カジノだけが集客能力があるわけではない。USJがいい例だ。
ギャンブルによる個人の破綻は、経済的困窮、貧困化を招くことだ。その影響は本人だけでなく、家族にも及ぶ。ろくなことはない。依存症の家族の話を聞くと、家族の苦しみは本当に大きい。自助グループで聞いた話では会社の金3000万円を横領し、刑務所に入った例やパチンコのトイレで首を吊ったケースもある。
ギャンブルによる社会の荒廃も見逃せない。若年層への悪影響や勤労勤勉思想の衰退、治安の悪化・風紀の乱れなどを招く。日本はギャンブルのおかげで豊かになったのではない。韓国の実例では悲惨な話がいくらでもある。マカオも同じ。下手すれば国が滅びる。年齢層別の依存症の割合によれば、少し古いデータでは、30代では10数%にも達していた。最近のデータでは年齢別のデータはないが、それが明らかになれば衝撃的な数字になるだろう。
少子高齢化、人口減少、環境問題、エネルギー危機、災害の激化など困難に直面している日本経済において、ギャンブルに28兆円ものお金と莫大なエネルギー・時間がつぎ込まれている。その上でなお政治家がギャンブルを奨励している。有用な使途に振りむけるのが政治家の使命ではないのか。
第3部 どうたたかうか
私の著書に「カジノ戦争」と名前をつけたのは、アヘン戦争に因んでいる。この両者を比較してみると、社会のトップの対応に違いがある。清王朝の皇帝は、庶民のアヘン中毒を憂えて、アヘンを厳禁した。しかし、いまの日本ではどうか。大阪の自治体のトップである松井知事や吉村市長は一生懸命カジノを推進しているし、関西経済界も推進だ。
しかし、国民の、大阪府民の大多数はカジノ設置に反対しており、反対は60%台で賛成の倍になっている。大阪の住民は「博都」を望んでいない。カジノ設置は自治体本来の使命(生命・健康・財産・生活を守る)に反するものだ。自然災害から守るために自治体は必死になっているのに、ギャンブルを誘致するということは「社会災害」をばらまくようなものだ。
先ほども触れた大阪の高校生向けリーフレットには「ギャンブルは、生活に問題が生じないよう金額と時間の限度を決めて、その範囲内で楽しむ娯楽です」と書かれていて、賭博は刑法で禁止されていることに一言の言及もない。住民監査請求で、大阪府に文句を言いに行くと、研究者の本から引用しましたという。その研究者はカジノに反対の立場の人で、その一部だけ取り出して引用しており、高校生に誤ったメッセージを与えるものだ。推進局が作成しているだけに抑制力は限界がある。残念ながら官僚のチェック機能がまったく働かなくなっている。
来るべき統一地方選挙には大きな意義がある。住民の合意がなくてはカジノはできない。住民の合意は、議会の決定である。現在はねじれ現象(住民は反対派が多数、議会は賛成派が多数)が起きている。このままいくと住民の多くが望まないものができる可能性がある。今度の選挙で、カジノ推進派の議員を減らし、反対派を増やさなければならない。もし府知事・大阪市長の首長選においても、どちらかの首長をとればカジノをストップできる可能性が生まれる。カジノ反対を核に統一候補の擁立が必要だ。カジノは反対が多く、特に女性の反対が根強いので、フォローの風が吹いている。今こそ、維新の衆愚政治を終わらせるために、カジノ反対の政党、団体、組合、市民、個人は大同団結しなければならない。
私たちは、昨年6月に「大阪カジノに反対する市民の会」を発足させ、今年の3月23日には豊中の豊中市立文化芸術センター(アクアホール)で大集会を開く。この集会は選挙を意識し、カジノ賛成の議員を減らし、反対派を増すために、選挙の判断材料を提供するものだ。
大阪でカジノをストップする意味は、大阪の住民と町を守るだけでなく、カジノ推進勢力に痛撃を与え、全国への波及を防ぐことにもなる。