11.8市民集会での塩崎賢明さん講演「巨大災害に備える自治体の課題」の要旨を紹介します。文責は、どないネット事務局にあります。
巨大災害に備える自治体の課題
今年は、日本を連続災害が襲った。しかし、今年が例外的とは言えない。地震について言えば、日本はきわめて特殊な国土であり、日本には分かっているだけで約2,000の活断層があり、プレートの圧力が高まって内陸のひずみが増大する「ひずみ集中帯」が何本も走っている。南海トラフの前にも地震が多発しており、異常気象もつづく。毎年、今年のような災害が起き、しかもどんどん悪化していく可能性が高い。
災害への対応では、事前予防・救急対応・復旧復興のサイクルがあるが、問題なのは復旧復興の過程で膨大な被害が出る「復興災害」である。確かに事前対策は必要で、高知県黒潮町には34mの高さの避難タワーがあり、南海トラフの津波が来た時には、ここに逃げれば命は助かるかもしれないが、その下の街並みは破壊され、住まいは失われてしまう。災害の後にどのように生き延びるか、が大きな問題となる。
災害に関する法制度には、災害対策基本法と災害救助法がある。基本法では、市町村が災害対応の基本とされている。しかし、市町村には財政も乏しく、力量もない。東日本大地震のあと、それまでの「公助」に加えて「自助」と「共助」が特に強調されるようになった。市町村や住民の自主性尊重は重要だが、国の責任逃れになってはいけない。
最近の災害の特徴は、関連死が増加していることである。熊本地震で、直接死が55人だったの対して、関連死は212人にのぼり、四倍近くになっている。死亡者には弔慰金が出るため、死者の数は把握されるが、その一歩手前を含めて病気になった人の数は把握できない。関連死の主な原因は、避難所生活や避難所への移動にある。関連死以外にも、関連疾患や災害による生活苦、住まいがなくなったり、被害を受けたことによる困難などもある。
(北伊豆地震の写真は、出典:毎日新聞社)
避難所は、1930年の北伊豆地震の際から90年経っても全く進歩がなく、床の上に雑魚寝するなど非人間的なままである。だから、避難所に行かない人も大勢いる。日本の避難所のトイレは工事用のトイレであり、食事はおにぎりというのも、関東大震災の昔と変わっていない。新潟大学の榛沢さんは「体育館の雑魚寝や車中泊は、血管に血栓ができるなどエコノミークラス症候群になりやすく、食事やトイレも含めて、避難所・避難生活の改善が急務」と主張されている。床の上に雑魚寝すると、口が床から近いところにあるため、ほこりなどを吸い込んでしまい、非常に不健康だ。
国際的に見れば、アメリカの災害避難所環境アセスメントでは、「水道・お湯が使える」「1人当たり3.3平方米以上のスペース」「電気が使える」「避難所で食事を作る、食事は冷たくない」「十分な簡易ベッド、マット」「ベッド、布団の定期的交換」「おむつ交換の場所は清潔」「子どもの遊び場には手洗い場がある」などが定められている。日本では、国がそのことを認識していないわけではなく、内閣府が「避難所の生活環境の整備等について」を出して、避難所の長期化に際して備えるべきものを書いているが、実際には改善されていない。
福祉避難所があるのは45%にとどまっていて、しかも実態は福祉施設が避難所にされている。これでは、普段から入所者で満杯なので、災害時に避難者を受け入れられない実態となっている。
イタリアの避難所を見てみると、医療施設や食堂があり、簡易ベッドも備えられている。トイレとシャワーのユニットも用意されている。食事は、1時間に1,000食を作ることができるというキッチンカーで調理された温かいものをテーブルで取ることができる。食事にはワインもついている。1980年のイタリア南部地震の避難所で提供された食事は、パン、スパゲッティ、ハム、ソーセージ、ビーンズ、スープ、ワイン・ジュース付だった。
まずは避難所のTKB(トイレ・キッチン・ベッド)の改革=「清潔で使いやすいトイレ」「温かい食事を食卓で」「雑魚寝をやめ簡易ベッド」が必要だ。大阪の段ボール会社の社長さんが段ボールベッドを考案し、避難所に持ち込むと、最初は断られていた。
隠れた被災者としての「在宅被災者」の問題もある。避難所や仮設住宅に行けず、壊れた自宅で生活している被災者のこと。災害救助法による応急修理をしてしまうと、仮設住宅や公営住宅の申込みができなくなるのだが、このことを知らない人も多い。石巻では、震災以降ずっと壊れた自宅に住み続けている人もいる。
地震や豪雨による住宅被害では、一部損壊という住宅が非常に多い。しかし、一部損壊ではほとんど支援の対象にならない。人手不足で業者がこない、年金暮らし、高齢、介護、病院通いなどでお金がなく、自力では住宅修理できない人が「在宅被災者」になっていく。今日の高齢化社会、格差拡大の中で一般化する恐れがある。
災害に対する対応では、鳥取県の取り組みが進んでいる。災被災者一人ひとりのカルテを作り、ニーズを把握し、支援する「害ケースマネジメント」の制度を作った。2000年の鳥取県西部地震以降、基金の積み立てを行い、2年前の地震では半壊や一部損壊も支援した。
仮設住宅には、鉄骨プレハブ、木造、みなし仮設がある。鉄骨プレハブ仮設住宅は住み心地は最低なのに、1戸当たり700万円以上のコストがかかる。
木造だと地元の材料を使い、地元の工務店が作るので、地域活性化にもつながり、コストも400万円である。みなし仮設(借上げ仮設住宅)は、自分で選べるし、早く入居できるのだが、問題点もある。日本に800万戸の空き家があり、これを活用するのも方向性としては正しいが、いろいろ問題もある。
イタリアの仮設住宅を見てみると、日本との違いに驚かされる。いくつかの種類があるが、いずれも広さは60㎡〜100㎡あり、3LDKや4LDKで家具はあらかじめ付いている。これでも、イタリアの被災者からすれば狭いと感じられるようだ。
日本では、災害公営住宅も多く建てられてきた。その中で問題となったのは、孤独死の問題である。阪神・淡路大震災での孤独死は、震災後の22年間で1,259人にのぼる。災害公営住宅で孤独死を発生させないように、というのが最大の教訓になっている。この災害公営住宅がベストの答えかというと、そうは言えないところがある。自力再建できない人のセーフティネットとしては重要だが、本来は自分の生活にあった住宅を自由に選べるのがベスト。20年後の復興住宅では、高齢化、リーダー不在、孤独死などの問題が出てくる。
国の被災者生活再建支援制度は、阪神・淡路大震災の被災者の運動の成果だが、支援金が最大100万円で、阪神・淡路大震災には遡及適用されなかった。2000年の鳥取県西部地震では、当時の片山知事が県単独で300万円の支援金を支給した。その後、法改正で、国からの支援金も最大300万円となった。各自治体では、住宅再建支援金の上乗せがあるが、本来は同じ災害で、自治体によって支援に違いがあるのはおかしい。全国どこでも同じように支援が受けられることが大事。
「復興」=都市整備というのが「伝統」になっているようだが、これは永遠不変の原理ではない。東日本大震災の「復興」で、大規模な移転事業がすすめられているが、1戸当たりのコスト非常に高いものになっている。インドネシア・スマトラ津波の高台移転では、市街地から遠いために空き家が増え、学校も荒れ放題になっている実態もある。
今後予想される南海トラフに対する備えとしては、まずは早期に避難することが大事で、早期避難で12.5万人は助かると想定されている。最大津波水位は3~4mと想定されているが、台風などと重なったら、これでは済まない。大阪特有のリスクもある。人口島の危険性は、東日本大震災の際のWTC被害や台風21号での関空水没で立証済み。夢洲でカジノや万博というのはとんでもないことだ。台風21号では、「想定外」のことがたくさん起きたが、南海トラフはその比ではない。テレビで池上彰さんが夢洲にカジノを作ることについて、「こんなところでカジノをやること自体がギャンブルですね」と言っていたが、その通りだ。
災害には起こったあとの復旧・復興の備えが必要である。避難所の改善はすぐにでも実行すべき。財源を有効に使い、被災者が喜ぶ無理のない復興の仕組みを作らなければならない。自治体首長は最前線で復旧・復興に取り組む構えを持たなければならない。「こんなことは初めて」というのは、毎年どこかで災害が起きているのだから、単に不勉強なだけである。
また、国民意識の改革も必要だ、おにぎりを差し入れてもらって有難がるのはおかしい。そして、防災・復興を常時考える「防災・復興省」がぜひとも必要である。東日本大震災の復興事業には32兆円使うことになるが、うまく使えていないのは、省庁ごとの縦割り事業になっていて、全体を考える人(部署)がいないから。
憲法改正による「緊急事態条項」は不要だ。現行法の活用で十分対応できる。非常事態宣言が一度出されると、解除されないままに独裁への道を歩む可能性があり、大変危険である。
自力仮設住宅という選択肢もある。インドネシアでは、被災者自らの手で「増殖型自力仮設住宅」としてのコアハウスという取り組みもされている。まず、資材を自分たちで購入し、大学教員や学生の指導を受けて、共同作業で鉄筋コンクリートの小さな住宅を作る。そのあと、2倍、3倍と拡大していくというもの。また、石川県輪島市では、2007年能登半島地震のあと、当時の総務部長の発案で、自宅敷地に公営住宅を建設するという取り組みを行った。自宅敷地の一部を市に寄付し、そこに公営住宅を建設する。すでに水道・電気・ガスなどは来ているから。建設コストは安くなる。将来の払い下げも視野に入れていて、行政と被災者がウィンウィンの関係になる。
イタリアでは、ローマに市民安全省があり、750人の職員がいる。災害発生後1時間で、首相を含むトップ会議が開かれ、そこにはボランティア団体代表も参加する。地下のオペレーションルームでは、軍・警察・消防・赤十字などがそれぞれ昼夜三交替でモニタリングしている。イタリアのボランティア団体は日本とは違い、何らかの専門性を持つメンバーを登録していて、その数は140万人にのぼる。原則として、2週間のボランティア休暇が保障され、交通費・宿泊費などの実費は国費で支給される。ボランティア団体の一つであるValtrignoの拠点を訪問したが、この団体は元警察署長のマルコ会長が夫婦2人で設立し、いまでは600人が活動している。ボランティア団体は、倉庫の中に機材を揃えていて、救急車やキッチンカーなども所有している。