2017年07月15日

7/13学習集会・金光男さん講演要旨その3〜ソウル市長の市政哲学と代表的施策

7/13学習集会金光男さん講演要旨の3回目は、ソウル市長の市政哲学と代表的施策についてです。

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朴元淳ソウル市政の特徴

朴元淳は、市長選に当たって三大核心選挙公約として、
 ①環境に優しい無償給食
 ②ソウル市立大学の授業料半額
 ③非正規職の正規職化
を掲げたが、すでにすべて達成されている。
当選後、ただちに予算編成しなければならなかったが、「市民とともに作る希望ソウル市政運営計画」発表し、ここで「市民が市長」ということを明らかにした。市長は権限を市民から委任されたに過ぎないということだ。朴(パク)前大統領は公的な権限を私的に濫用したのとは対照的。
この市政運営計画の中で、五大市政目標をあげた。
 ①堂々と享受できる福祉
 ②共に豊かになる経済
 ③共に創造する文化
 ④安全で持続可能な都市
 ⑤市民が主体になる市政
この中で、特に「堂々と享受できる福祉」に注目したい。

堂々と享受できる福祉〜失業青年に対する施策

具体的な政策としては、脆弱層に対する配慮として、社会福祉予算を4兆ウォンから8兆フォンに増やした。また、障がい者雇用の法定雇用率は3%だが、2012年度からソウル市では職員採用の10%を障がい者にしている。
韓国では、青年の中で3放(恋愛・結婚・出産を諦める)、5放(さらに就職・マイホームも諦める)が広がっている。韓国の青年(15歳~29歳)失業率は深刻で、統計庁2017年5月雇用動向によれば9.32%となっている。ソウル居住20代青年に限ると、34.9%が未就業、求職状態、超短時間のアルバイトである。
ソウル市では、就職活動するためのスーツ費がないという若者の声にもとづいて「就業の羽」サービスを2016年から始めた。このサービスは、18~34歳の就業準備生にスーツを無料で貸与するというもので、KEBハナ銀行が(社)開かれた衣服に社会貢献基金を設けて、
スーツ1000着とネクタイ、ベルト、靴など3500点を用意した。
また、アルバイトに追われて就職活動をする時間がないという青年に対して、青年活動支援費(青年手当)支給も始めている。2016年に、75億ウォンの計画で、3千名を対象に50万ウォンを5ヶ月支給しようとしたが、政府がストップをかけた。しかし、文(ムン)政権になって、政府もこの施策を積極的に認めるようになり、2017年には200億ウォンで、5千名×50万ウォン×6ヶ月支給する。これによって、アルバイトを休んで就職活動をしたり、スキルアップのために専門学校に行ったりできるようにしようというのである。

ソウル市で原発1基分の電力削減をめざす

2012年に、原発1基分(100万kw)削減総合対策「太陽光都市ソウル」が発表された。市長は、「反原発」という言葉を使わない。それはソウル市が電力の大消費地であるので(ソウルは原発7基分量の電力消費都市である)、スローガン倒れにならないようにするためである。このプランによれば、2014年6月までの市長任期内に、原発1基が生産する電力量(200万TOE)をエネルギー節減と新再生エネルギー生産によって代替する計画だった。
原発1基分の電力削減のために、①電力を作る:太陽光発電の推進、②電力の節減:エコマイレージ制度、③効率化:建物のエネルギー効率化(BRP)及びLED照明普及などにとりくんだ。
エコマイレージ制度とは、HPに水道番号、ガス番号、電気番号を入力すると、使用量の平均値が出てくるので、6ヶ月単位で、エネルギー(電気・都市ガス・水道)のうち、2つ以上の使用量が直前2年間の平均使用量と比較して削減された場合、インセンティブを提供するというもの。具体的には、5~10%未満の削減なら1万ウォン、10~15%未満なら3万ウォン、15%以上なら5万ウォンのエコポイントがもらえ、新環境商品の購入、提携店舗のポイントに転換、Tmoneyカードのチャージ、公課金に充当などに使うことができる。
こうしたとりくみの結果、すでに目標を達成しただけでなく、原発1.8基分相当の削減に成功した。国レベルでも、文大統領は新規原発の建設中止、建設途中の原発建設を停止して、3ヶ月で国民の議論を経て、国民が決定するプランを発表下が、その議論の中でソウル市の事例は追い風になることは間違いない。ソウル市は、温室ガス819万t /年を削減している。
一方、橋下市長も「関西電力経営陣」に対して、原発に過度に依存する経営を批判下が、そのあと、原発に対してどのような発言をしているのだろうか?ソウル市との対比は鮮明である。

訪ねて行く福祉への転換

ソウル市は、福祉パラダイムを「訪ねて行く福祉」に転換すると発表した(2015.7.22)。市民が行政に来るのを待つのではなく、行政が市民のもとに訪ねていく福祉への転換である。2018年度までに段階的に実施される。これは「堂々と享受する福祉」の具体化でもある。具体的には、13自治区・80洞の洞住民センターを住民密着型の福祉拠点に転換し、2018年までに全ての25自治区・423洞に拡大する。その内容は次の3本柱からなる。
*65歳以上の高齢者を看護師が定期的に訪問し、血圧など健康状態を持続的にチェックすると共に高齢者福祉を案内。
*出産家庭を看護師などが訪問し、母子の健康評価、産後ケアなどを実施し、保育情報などを提供。
*生活困窮家庭を福祉プランナーなどが訪問し、福祉・雇用・保険・生活保護などの統合サービスを提供。
このために、洞事務所に6~8名の社会福祉担当公務員と訪問看護士を増員(3年間で2350名)して福祉の死角を解消しようとしている。

住民参与自治のとりくみ

ソウル市は、住民参与自治をすすめるために、ソウル地域共同体事業を行なっている。この事業は、住民3名以上が申請すれば審査を受け、コンサルティング、財政支援、成功した事例紹介を受けることができるというもの。
具体的には、地域内の住民センターなどを利用し、育児問題などの社会的支援事業を行う事例がある。マッポ区のソンミサンの事例が典型的なもので、自分たちで出資して協同組合を作り、保育所やスーパーマーケット、ブックカフェ・食堂を作った。これをソウル市内全域に拡大しようとしている。
他にも、エネルギー節減を拡大するエネルギー自立村のとりくみ、空き地利用農業や共同育児部屋の運営、住民メディア事業を行うマンション共同体のとりくみなどもあり、サイトで成功事例を見ることができる。
開かれたソウル市政をめざす事業としては、毎週土曜にソウル市民聴で行われるソウル市民発言台やSMC(ソーシャル・メディア・センター)設置がある。このSMCとは、ソウル市・市長のSNSアカウントに市民からの意見・要望を送ると、自動的にSMCが受け付け、担当部署に送られ、処理した結果を公開して透明化する事業である。
日本においても、この事業は「SNSを活用して市民の請願を直接受付けて‘光速行政’を展開する市長」として、NHK-BSの「世界の個性派市長」で紹介された(2016.6.16)。

ソウル市の改革で負債は増えたのか?統治機構を変更したのか?

朴元淳市長は「在任中に最もよくできたのは、市の負債7兆7千億ウォンを減らし、社会福祉予算を2倍に増やしたことだ」(2017.7.10)と述べている。実際に、2016年度予算案は27兆4531億ウォンと前年度予算から7.6%増えているが、その中でも福祉予算が8兆3893億ウォンと全体予算の34.7%を占めた。
その一方で、住宅公社関連の債務を中心に大きく債務は減らした。しかも、ソウル市の改革は、統治機構変更なしに達成されたものである。統治機構ではなく、知事・市長の哲学こそが問われる。副市長になぜ改革できたのかを聞くと、「市長の哲学です」と答えた。
朴元淳市長の市政哲学とは、
①徹底した現場主義〜都市の再開発問題で住民の講義を受けたとき、その現場に市庁舎の出張所を作って解決していく。路上生活者問題では、現場に行って徹底的に討論する。
②住民参与を誘導し、行政が支援する地方自治モデル
③既存の人的・施設資源を活用する共有都市構想
にある。
既存の人的・施設資源の活用という部分を取り上げると、「幸せな部屋作り事業」では、独居高齢者とひとり親家庭、障がい者家庭など19,837世帯の壁貼り·オンドルの床交換及び暖房器掃除·点検修理に12,847名のボランティアが参加した(2012年)。このとき使った壁紙などの資材は、ケナリ壁紙(株)などの企業が提供したものである。企業提供といえば、韓国ユニクロがソウル市及び自治区所属の環境美化員5,600名に汗を吸収する下着の「エアリズム」を提供したという事例もある(2017.7.11)。
朴元淳市長の2期目の市長就任式が2014年7月1日に行われたが、予算はゼロだった。司会は就業準備青年が行い、芸術公演は市民の“才能寄付”によるボランティアだったからである。

候補者選出過程の透明化が必要

朴元淳は、突然候補者に選ばれた訳ではない。野党の候補者との選挙協力についても、当時の第一野党・第二野党の候補者と公開の予備選挙で争って、その結果野党統一候補に選ばれた。実際の選挙活動においても、市民と野党が協力する選挙キャンプ(日本で言えば選挙対策本部)が作られた。ひるがえって、東京都知事選での宇都宮さんの立候補を辞退し、途中で手を挙げた鳥越さんが候補者になった経緯は密室で行われ、有権者には分からなかった。これでは、市民が積極的に選挙活動をするだろうか。韓国の選挙文化は、公開的で透明化されたシステムをもっている。市長も予備選挙を経なければならない。日本の選挙文化の改革も訴えたい。
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7/13学習集会・金光男さん講演要旨その2〜ソウル市の労働哲学に基づく非正規労働者の正規職化

7/13学習集会での金光男さんの講演要旨その2です。今回は、ソウル市の労働哲学に基づく非正規労働者の正規職化について述べられた部分です。

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非正規職労働者の正規職転換〜第一段階

今、非正規職の撤廃が次の課題となっている。先日、非正規職を中心にしたゼネストが行われた。非正規職の労働者は様々な差別を受けている。いつ首を切られるかわからない雇用不安、何年働いても賃金が上がらないなどの賃金格差、有給休暇がなく、賞与金、退職金も給付されないという福利厚生における差別、年金・健康保険加入率の低さなど。
ソウル市は「労働尊重都市」を宣言し、非正規職の正規職転換に取り組んだ。ソウル市の正規職転換政策によって、いまでは職員の5%だけが非正規職というところまできた。この政策は、3段階にわたって実施された。
まず、第一段階では、2012年3月22日に「公共部門非正規職の正規職転換計画」(第一次)が発表され、期間制の直接雇用非正規職のうち2年以上常時勤務し、持続的業務に就いている者が正規職に転換された。正規職に転換されたことによって、号俸賃金制が適用され、賃金が上昇、勤続加算金を基本給に参入など、待遇が改善された。その結果、平均年1500万ウォン(約150万円)から年1860万ウォン(約180万円)に賃金が上がっただけでなく、福祉ポイントの提供、年次休暇・昇進・退職金支給なども実現した。
また、転換対象から外された者(正規職転換の基準=「業務が2年以上常時持続する」から外れた人)の待遇改善として、①1人当たり年246万ウォン(福祉ポイント+正月などの手当)支給、②最低限の人間的な生活を享受できる水準の賃金体系である「生活賃金制」導入、法定最低賃金から20〜30%アップした賃金支給が行われた。

非正規職労働者の正規職転換〜第二段階

第二段階としては、2012年12月5日に「第2次非正規職雇用改善対策」が発表され、 清掃・施設管理・警備など、人材派遣会社から派遣されている間接雇用労働者(5,953人)の直接雇用・正規職転換をおこなった。これは、派遣会社との契約終了時点で直接雇用し、段階的に正規職転換、賃金・福利厚生の適用対象とするもので、この結果、清掃労働者の場合、月平均131万ウォンから153万ウォンへと賃金が上がった。また60歳定年保障の対象にもなった。もともと高齢者が大多数を占めていた業務、例えば清掃・警備・駐車場管理・運転などでは、65歳が定年となった。

正規職転換で財政は圧迫されなかったのか?

正規職転換が行われれば、人件費がアップして財政を圧迫するというのが「通説」だが、そういう危惧はあるのだろうか。
最近知ったのだが、大阪市では窓口業務をしているのは市職員ではなく、ほとんどが派遣労働者になっている。これは非正規化によって人件費を減らすことができるという考えに基づいている。
しかし、ソウル市では、7千人以上を正規職に転換下にもかかわらず、人件費は圧縮された。確かに人件費は16%増えたが、それまで派遣会社に支払っていた経費より31%減少させることができた。派遣会社に1730億ウォン払っていたのが、直接雇用になると1666億ウォンとなり、結果として64億ウォンの予算節減効果が発生したのである。つまり、給与アップにもかかわらず、人件費が圧縮されるという「通説」とは違う結果になったのだ。しかも、労働者にとっては、雇用不安が解消され、福利厚生が適用されることで、生活が安定した。さらに、それは社会の安定につながると考えられる。

人間らしい生活・労働がソウル市の労働哲学

研修会での朴元淳市長発言を紹介しよう。市長は、ごく一部の転換されなかった労働者に謝罪した上で、「いつ解雇されるか分からないという不安な気持ちの まま、どうして仕事に情熱を傾けることができるでしょうか。最も厳しい仕事を最も大変な条件の下で行っている労働者に正統な労働の対価を支払うことができなければ正義を尊ぶ公正な社会とは言えません。今回、私が行なったことは、極めて当然な労働の常識の見直しであり、社会の基本を回復したことに過ぎないのですと述べ、人間らしい生活が基本であり、人間らしい労働の常識を取り戻すのがソウル市の労働哲学だと明らかにした。

非正規職労働者の正規職転換〜第三段階

三段階目の正規職転換は、非常に残念なことを伴って行われた。2016年5月28日、ソウル地下鉄2号線・九宜(クイ)駅ホームで安全ドアの作業中だった派遣会社(ウンソンPSD)職員Kさん(19歳)が、列車とホームドアに挟まって死亡するという衝撃的な事件が起こった。それを受けて市長は、地下鉄の安全業務7分野を直営・正規職に転換した。
この事故を調べると、ソウル地下鉄公社が子会社を作って、故障発生時に業務を派遣会社に依頼していたことがわかった。子会社は、地下鉄校舎幹部の天下り先担っていた。市長は謝罪するとともに子会社の解散と安全業務に携わる職員を全て正規職に転換するように命じたのである。

さらに前進するソウル市の労働行政

ソウル市は、2016年4月27日、労働尊重特別市ソウル2016を発表した。これは画期的な宣言だと言える。これを受けて、8月11日には「ソウル特別市労働革新総合計画」を発表した。この内容は、①非正規職比率(現在は5.4%)を2018年までに最大3% 以下に削減する、 ②常時持続業務や生命・安全と直結するすべての業務を正規職化する、③「非正規職採用3大原則(2年以下の短期+例外的+最小化)」を徹底的に適用する、④民間委託の正規職化拡大である。すでに、水道の検針員を直接雇用に転換した。
市長の任期は来年6月までなので、どこまで進むかは断言できないが、みんなが持っている「常識」を壊していっている。
また昨年、ソウル市議会が「ソウル特別市勤労者理事制運営に関する条例」を成立させた。これは、労働者の定員が100人以上のソウル市が投資したり、支援したりしている機関(16機関)では、勤労者を理事にしなければならないというもので、ソウル研究院のペ・ジュンシク研究員が勤労者理事に任命されたのを皮切りに、既に6機関で労働理事が任命されている。
posted by terama at 07:45| Comment(0) | 都市問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする